ホーム > クルーズニュース > 2022/10/28 【月末オピニオン】 来年、サクラが咲くころには−
「長かったトンネルの出口の明かりが、ようやく見えてきた。途中で何度も息切れし、歩くのをやめようかと思った。しかし、時にライバルでもある仲間たちに励まされ、何とかゴールにたどり着くことができそうだ。何人か落伍者は出てしまったが、もう振り返ることなく前を見つめて歩き続けたい−」
新型コロナウイルス(COVID−19)の感染拡大を防ぐために続けてきた政府の水際対策緩和が決まり、国際クルーズの再開に向けた各種準備が急ピッチで進む中、懇意にしている外国クルーズ船社の日本駐在幹部は、グラスを傾けながらこう語った。
横浜港で世界の注目を集めた「パンデミック」から2年半余り。国際クルーズ再開に立ちはだかっていた数多くのハードルは、あとわずかとなった。
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思い起こせば2年半前。クルーズ船社や乗客だけでなく、港湾や観光、交通、保健部局など、クルーズ業界に関わるさまざまな分野の人たちが、極めて重たい「トラウマ」を抱え込むことになった。波状攻撃のように襲ってくる新型コロナ変異株の猛威が顕在化するたびに、そのトラウマはよみがえり、癒えない傷口に塩を塗られることも珍しくなかった。
ただ、日本にいる外国クルーズ船社の関係者も、黙ってこの状況に甘んじていたわけではない。ライバルの壁を越えて手を携え、このトラウマの払しょくと共に、見えないトンネルの出口を探して地道に歩き始める。「運航再開」という目標達成に向けて中央官庁と定期的な話し合いの場を持ち、ある時は永田町にも足を運んだ。最近ではインバウンド復活を待望する地方の首長にも働きかけるなど、積極的で精力的な活動が続いた。
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日本政府の水際対策緩和を待っていたかのように、韓国や台湾も類似の緩和措置を決め、ようやく北東アジアに国際クルーズが復活するための環境が整いつつある。シーズンオフでもあり、年内に北東アジアに来航する外国クルーズ船のスケジュールはない。ただ、来年のサクラが咲くころは、久しぶりに10万総トンを超える大型のクルーズ船が日本のあちこちの港にやって来ることだろう。
新型コロナとインフルエンザの同時流行や、新たな変異株の脅威も気にはなる。しかし、2020年春以来となる外国籍のクルーズ船の寄港に、胸の高まりを感じる人は日本全国に少なくないだろう。 (みなと総合研究財団・クルーズ総合研究所副所長 沖田一弘)